ヴィンテージリーバイス「16刻印」の謎の真相に迫る!16番工場は二つ存在した!
「16刻印」とは?
みなさんが大好きなリーバイス501のトップボタン裏の刻印といえば、神々しく輝く「16刻印」。(16番工場)
この16番工場は、アメリカ合衆国のBaldwyn(Mississippi州)にあったLucky-Star-Industries, Inc.の工場であったということは、既に知っている方も多いことでしょう。
⇒80年代~90年代のリーバイスの米国工場番号コードとは?-3-「575」「653(旧16工場)」が判明‼
⇒80年代~90年代のリーバイスの米国工場番号コードとは?-6-刻印「16」は「653」Baldwyn(Lucky Star社)だった!
主に60年代から70年代にかけて16番工場で作られた501には、同年代のそれとは違うイレギュラーな仕様(生地、縫製、副資材等)が多く、マニアはその些細な違いに喜びを見出して狂喜乱舞するのです。(便宜的に以下501を想定して書いていますが、502,505もあります。)
もちろんマニアでない人から見たら、それがどうしたということになるのでしょうが、マニアではないけれど興味のある方は、「16刻印」「リーバイス501」などで検索してみるがよろしいでしょう。
語り部のアツい息や唾が今にも飛びかかってきそうな記事や動画が山ほど出てきますから。
なお、「16刻印」は、80年代には「653刻印」へと番号が変更となり、1998年にはLucky Star社は静かにそのジーンズ製造の歴史に幕を下ろします。
今回は、ワタクシがその16番工場の謎の真相に迫るという大変ありがたい記事ですので、刮目してお読みください。
「16刻印」の謎?
長年「16刻印」の501は、イレギュラーな仕様が多く、その理由や工場の存在が謎とされていました。
最近、上記のとおり、16番工場はLucky Star社の工場であり、リーバイス社の外注工場であったことが判明しました。
16番工場の501のイレギュラーな仕様の理由は、「外注工場であったため、本社の指示やチェックが手薄だった。(好き勝手に作っていた)」めでたし、めでたし。
のはずだったよね?
ところが、どうしても解決できていない謎がまだ3点残っているのです。
1.工場稼働開始時期問題
80年代~90年代のリーバイスの米国工場番号コードとは?-3-内にある「Memphis Business Journal」の記事をあらためて引用してみましょう。
After 40 years together, Levi Strauss and Co. is parting ways with Lucky Star Industries, eliminating some 325 jobs here as a result.
Last month, Levi Strauss officials made the decision to transfer its domestic production to overseas facilities, says Tamara Churchman, manager of public affairs for Levi Strauss in San Francisco.
“We have notified Lucky Star that we essentially are going to discontinue doing business with them," says Churchman. “It was a difficult decision to make because they have been with us since 1958”
40年間の提携を経て、リーバイ・ストラウス社はラッキー・スター社と袂を分かち、・・・
「彼らは1958年から私たちと協力してきたので、難しい決断でした。」
この記事から16番Baldwyn工場でのリーバイス製品の製造開始は、1958年ということがわかります。
ところがです、そう、ところがです。
間違いなく1958年より前に作られた「16刻印」の501XXがあるというんです。
1950年初頭から16番工場は稼働していたはずなんていう人もいます。
そんな人たちの呪いが毎晩毎晩毎晩、いや昼間でも、これでもかとワタクシを苦しめるのです。
長年ヴィンテージリーバイスをこよなく愛して来られた先人たちの呪いともいえる主張が…新参者のワタクシの首を締め付けるのです。
そもそも40年代~70年代のリーバイス501は、ワタクシの専門外です。(やっすい80年代~90年代の501しか知らんのです。)
そこで、ワタクシ老体に鞭打って、まさかの猛勉強を決意しました。
目は屡、足腰は座骨神経痛、一体全体何年寿命が縮んだことでしょう。
その猛勉強の成果をここぞとばかりにひけらかしたのが、50s-60sの工場番号の記事やタイプ物の記事だったわけです。
ネットで探すと1958年より前に作られたであろう「16刻印」の501XXの存在の多くをこの目に認めました。
確かに16番工場の稼働開始は1958年であるという記述と、1950年代前半の16刻印の501が存在する事実とが矛盾するのです。
後世言い伝えられるであろう、いわゆる「16番工場稼働開始時期問題」というやつです。
2.工場番号整列紊乱問題
ワタクシがまとめた50年代から60年代の刻印(トップボタン裏、隠しリベット裏)をご覧くださいませませ。
1950年代~1970年代のリーバイス社の工場番号(ボタン裏刻印)&所在地(妄想感強め)
これらの工場番号のリスト作成は、いわば16番工場の調査のための前座にすぎません。
結果、50年代前半にも16番工場の存在が確認できました。(この問題は下記3へ。)
さて、この表から導かれる法則は、下記の3つです。
イ 1950年代は、11を起点に稼働開始が古い工場から新しい工場へと順番に番号を振った。
ロ 1960年代は、記号を振る時点で存在する工場の地名(または提携・買収会社の社名)の頭文字の記号を採用した。
ハ 1970年代は、1を起点に稼働開始が古い工場から新しい工場へと順番に番号を振った。
上記イ、ロに関しては見事に法則通りの姿勢が見られますが、唯一この法則を無視しているのが、ハの70年代のBaldwyn工場です。
法則をそのまま適用するならば、Baldwyn工場は「10」であるはずです。
後世言い伝えられるであろう、いわゆる「16番工場番号整列紊乱問題」というやつです。
3.工場重複問題
アルファベット刻印がトップボタン裏に打たれる前の時代の501XXには、隠しリベット裏に2ケタの数字が打たれていました。(全てではありません。)
この数字も工場番号を表わしており、各工場の番号・アルファベットの変遷は上記の表の流れで、まず間違いないでしょう。
(この辺の詳細は、hands-on裏Blogを丁寧に読み下して検証してみてください。)
で、上の表を見て気付きましたよね?
「Baldwyn」だけぢゃなくて、「El Paso」も「16刻印」?
そう、初期の二桁番号時代にもちゃんと16番工場は存在したのです。
ただ、その「16番工場」は、、、、エル、パソ、El、 Paso、El Paso。
「16番工場稼働開始時期問題」とも関係しますが、16番工場がダブって存在するのです。
そう、後世言い伝えられるであろう、いわゆる「16番工場重複問題」というやつです。
16番工場の謎解きはエルパソ工場の謎解きでもあった
・16刻印(50s)=El Paso
・16刻印(70s)=Baldwyn
上記2つが正しいと仮定するならば、
論理的帰結は
・El Paso = Baldwynとなるはずです。
もちろんその可能性だってゼロとは言えないけど、まあ間違っています。
では、この論理的矛盾を、どのようにして解決すべきなんでしょうか。
16番工場を徹底的に調べたいのだけれど、BaldwynのLucky-Star社の情報がなかなか見つかりません。
El Paso工場にも矛盾
16番工場BaldwynのLukcy-Star社は、一旦あきらめてEl Paso工場に焦点を当ててみましょう。
「Texasmonthly」の1997年7月の記事にこんな記載を見つけました。
1966 Levi Strauss of San Francisco opens its first factory in El Paso. Thirty years later, the city will be the blue-jean capital of the world, and the company will employ a total of 10,000 Texans there and in eight other towns to manufacture its classic, denim cowboy pants.
???1966年 サンフランシスコのリーバイス社は、エルパソにおける同社の最初の工場を開設。???
他のサイトでも同内容の記述を目にしました。
ということは、上記の表のEl Paso工場の開設が1947年というのは間違いなのでしょうか。
ドウイウコトデスカ?ワタクシ意味ワカリマセヌ。
もう、全てのピースがバラバラです。
お手上げです。
「El Paso」は「El Paso」ではなかった!
完全に調査は暗礁に乗り上げた訳ですが、ワタクシは終に一つの新聞記事を発見しました。
それが、上の写真です。”Cristina Moreno はリーバイスのパンツのインシーム部分をあっという間に縫い上げます。”てなことが書かれています。
「El Paso Herald-Post」紙の記事なんですが、その日付が1955年4月23日。
問題なのは、この写真の下にしれっと記載された下記の文章です。
The Top-Notch Manufacturing Co., makes blue denim Levi overalls at two plants.The factories are located at 301 and 400 South Kansas street. Affiliated with Levi- Strauss Co. since 1947. the company employs 300 persons and has an annual payroll of $550000.
Levi- Strauss, which has been making Levis since 1850, has several retail outlets in El Paso, but Top-Notch ships a vast majority of its products to retailers throughout the Westeern states.
The Top-Notch Manufacturing Co. (トップノッチ社)は、2 つの工場でブルーデニムのリーバイス オーバーオールを製造しています。工場は、サウスカンザスストリート301番地と400番地にあります。 1947 年以来 Levi-Strauss Co. と提携しています。同社は300人の従業員を雇用し、年間給与550,000ドルです。
1850年以来リーバイスを製造しているリーバイ・ストラウス社はエルパソにいくつかの小売店を持っていますが、トップノッチ社はその製品の大部分を西部諸州の小売店に出荷しています。
「El Paso」→「Baldwyn」
1947年操業のEl Paso工場は、提携会社のThe Top-Notch Manufacturing Co.(以下、TNM)だった。(16番工場)
1966年操業のEl Paso工場は、リーバイス社の自社工場だった。(29番工場-まだあやふやな情報です。この工場番号はまたいつかの機会に。)
結局2023年11月末時点で判明したのは上記2つの「点」だけです。
それらを結ぶ「線」や「ファクターX」があるのか。
「El Paso」 = 「Baldwyn」 ではなく、「El Paso」→「Baldwyn」
これが、ワタクシの灰色の小さな脳細胞が導き出した、非常識で愉快なシナリオ(結論)です。(いつものとおりワタクシの妄想ですので、誤解なきよう。)
①1947年操業のEl PasoTNM工場は、1966年までにリーバイス社によって買収された。(または廃業した。もしくは提携を解消した。)
②1966年操業のEl Paso自社工場は、消滅したEl PasoTNM工場が使用していた「E」「6」を受け継いだ。(66年前後は既に16番は使用していない。由緒ある「E」「6」は存続させたい、そう、ミ〇ツカンのようにネ。)
③1958年操業のBaldwynのLucky-Star工場は、「20」「L」と刻印を使用してきたが、アルファベットから数字に変わる1966年頃に、El PasoTNM工場がかつて使用していた「16番」を継承した。(追記2024.07.28:「20」については、aldwynのLucky-Star工場ではないも…。詳細判明すれば追記します。)
なぜ「16番」を継承したのか。
④消滅したEl PasoTNM工場の在庫資材が大量に余っていたので、BaldwynのLucky-Star工場がそれらを引き取ったからではないでしょうか。
60年代70年代の16番工場の古い時代のデニム生地やボタン、リベットの使用もこれで説明がつきます。
全てのピースがピタリとハマった気がするのはワタクシだけでしょうか。
なぜ、El Paso自社工場は、その旧資材を引き取らなかったのか。
1966年操業のEl Paso自社工場は、ぴっかぴっかのどデカい最新最先端の工場です。
その後の70年代には、ほとんど全ての501の生産を賄うことになる超エリート工場だから、効率化のためにも古い在庫資材は必要なかったし、かえって無駄で邪魔だったに違いありません。
今でいうSDGsなリーバイス社は、その膨大な在庫資材や設備をBaldwynのLucky-Star工場に送り届けた。
ちなみにリーバイス社は、かつて13番SantaCruz工場閉鎖時に、その設備を15番Sedalia工場に移設した前歴があります。
在庫資材の中には、16刻印のボタンも大量にあったことでしょう。
だったら、いっそ16番工場を承継しちゃうべさと。10番なんていらないさぁ。
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残念ながら、それらを裏付ける資料や証拠は今のところありません。
ワタクシの脳内ファンタジーにお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
それでは良いお正月を。《完》
2つの16番工場
16番工場は二つ存在した。
16刻印の501XXと、16刻印のBigE以降の501とは、違う工場で製造されたということです。
・1966年頃までの501(501XX)の16刻印は、El Paso[TX](エルパソ・テキサス州)工場製!
・1967年頃以降の501(BigE以降の501)の16刻印は、Baldwyn[MS]-Lucky Star Industries(ボールドウィン・ミシシッピ州ラッキースター社)工場製!
★ 1960年代後半のリーバイス・ビッグE「ダブルネーム]とは?
★ 1960年代後半のリーバイス・ビッグE「タイプ物」について-1/2
★ 1960年代後半のリーバイス・ビッグE「タイプ物」について-2/2
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